生きること    絵本館Top


「ライオンのしごと」 「おかあさん」
「つるつるしわしわ」 「天上と地上で」
「エリカ奇跡のいのち」 「ワニ」
「オットー」 「ぼくはあの戦争を忘れない」
「悲しい本 SAD BOOK」 「名前をつけるおばあさん」」
「ハルばあちゃんの手」
「ありがとう、フォルカーせんせい」
「月にとんだ猫」
「彼の手は語りつぐ」
「鹿よ おれの兄弟よ」
「三角あき地のネコ人間」
「さむがりやのサンタ」
「サンタのなつやすみ」
「ゼラルダと人喰い鬼」
「ブライディさんのシャベル」
「えをかく」
「おばあちゃん ひとり せんそうごっこ」
「注意読本」



オンライン書店ビーケーワン:ライオンのしごと 「ライオンのしごと」 竹田津 実・作  あべ 弘士・絵  偕成社

タンザニアの草原で、ライオンの裁判が
始まります。
訴えたのは、母親を殺されたヌーの子供、
訴えられたのは、ライオンのおかあさん。

裁判長はハイラックス、それぞれに、弁護士がつきます。
証人も呼ばれます。
ヌーの子供は、ライオンの非を訴えますが、
証言が重ねられ、次第に自然の摂理に
気付かせられます。

世界は、一方の側から出来上がっているのではなく、
多方面があるのだと、改めて気付かされます。

子供が小さいうちに、世界を理解するためには、
とてもよい本と思いますが、大人でもつい忘れがち、
もう一度、改めて考えるのに、良い本と思います。




オンライン書店ビーケーワン:つるつるしわしわ 「つるつるしわしわ」 バベット・コールさく かねはらみずひと・やく ほるぷ出版

「としをとってもはらはらどきどきは
やめられない!」といっているおじいちゃんと
おばあちゃんの、物語。

小さいときから年を取るまでが、おしゃれに、
ユーモアたっぷりに、描かれています。
年を取るのって、こんなものかもしれない、
って、感じの本です。



オンライン書店ビーケーワン:エリカ奇跡のいのち 「エリカ奇跡のいのち」 ルース・バンダー・ジー文  ロベルト・インノチェンティ絵  柳田 邦男訳 講談社
エリカとは名前です。ユダヤ人の女性が、自分がどうやって
生きられたのかを、著者に語る形をとっています。

表紙も中の絵もモノクロ写真のようで、色がありませんが、表紙に書かれた
「エリカ奇跡のいのち」という題名のところが、ピンク色になっています。
背表紙も同じ色です。
この色と同じ色が、中にもあります。エリカが包まっていた毛布の色です。

ただ本文全てがモノクロではなくて、中に2箇所だけ、カラーページがあります。
最初のページの現在の町の様子、最後のページのエリカが育った村の様子、の2箇所です。
そのカラーも、ヨーロッパカラーというのか、抑えた色合いです。

ユダヤ人が第二次大戦の時、迫害を受けたことは誰もが知っていますが、
エリカのように助かった子どもは、本当に奇跡でしょう。幾重もの意味で。

エリカは生まれたばかりに、両親とともにユダヤ人の収容所行きの列車に乗せられます。
両親は、列車の先に「死」しか待っていないと分かると、エリカだけでもと、列車の小さな窓から、
ピンク色の毛布に包んで投げ出したのです。
幸い、草の上に落ち、見ていた村人に拾われ、親切な女性の下で育ちます。

収容所の「死」を免れ、列車から落ちるという危険も成功し、親切な女性、
(この当時はユダヤ人の子どもを育てることは、死の危険が伴う行為でした。)
に育てられ大人になって、家族を作るのです。
奇跡以外の何者でもないでしょう。

この絵本の絵は、最初モノクロ写真かと思うほど緻密な絵です。
貨車の様子、有刺鉄線の感じなど映画を見ているような錯覚を覚えます。
(「シンドラーのリスト」を思い出しました。)
また、登場人物の顔が後ろ向きか、胸から下を描いているかで、見えません。
唯一赤ん坊のエリカのみが、画面の向こうから私たちを見つめます。
じっと。

オンライン書店ビーケーワン:オットー 「オットー」  トミー・ウンゲラー・さく   鏡哲生・やく  評論社
副題が「戦火をくぐったテディベア」となっています。
第二次大戦前にドイツの工場で作られたテディベアは、デビッドの誕生日の
プレゼントになりました。それから、友達のオスカーとオットーと名づけられた
テディベアは楽しい日々を過ごすのですが、戦争となりユダヤ人のデビッドと、
オスカー、オットーは離れ離れになります。

その後のオットーの数奇な運命の物語です。テディベアの自伝ということになっています。
裏表紙のオットーを見てください。真剣に書いています。ゴーストは使っていないでしょう?!

ウンゲラーは「すてきな三にんぐみ」の作者です。(まだ未読ですが。)

ここに2冊、第二次世界大戦とユダヤ人に関係した本が並んだのはまったくの偶然です。
(念のため)


オンライン書店ビーケーワン:悲しい本 「悲しい本」 マイケル・ローゼン作 / クェンティン・ブレイク絵 / 谷川 俊太郎・訳 あかね書房
笑った中年の男の顔から、絵本は始まります。
しかも、とても悲しんでいると言う文章です。
この笑顔は、かなり、突き刺さってきます。

むすこのエディが死んだとことが、悲しみの原因と説明され、エディが
生まれた時からの様子が1ページに4つのコマ割で、描かれます。
2ページ目の最後のコマは空白です。
この白さも目に痛いです。

悲しみは、突然やってきて人を襲います。誰でも。でもその悲しみは、
自分の物でしかないのです。だから、自分でどこかへ、悲しみを片付け
なければならないのでしょう、いずれ。

最後のぺージは、見開きでろうそくを見つめる男の絵です。
一ページ目より、落ち着いて見ることが出来ます。
ろうそくの光は、悲しみの中の明日へと続く道を照らしていると、
訳者の谷川さんは、解説しています。

この絵本は、やはり大人を意識して制作されたものと思います。
子どもは、子どもなりの読み方があるのかもしれませんが。
絵本紹介の講演を本にしたものに、大人だけに向いている絵本を批判する
ものがありました。私は、それはおかしいなと思いながら、やはり、大人だけを
意識している絵本は面白みに欠けると考えています。でも、こういう絵本もあるのです。
大人でなければ理解できない内容が、主題になったものが。

図書館でも、大人向きの絵本、大人が読んで楽しめるものなど、子ども用の
本棚とは別に作ってもらえたらな。なんて思ってます。
オンライン書店ビーケーワン:ハルばあちゃんの手 「ハルばあちゃんの手」 山中 恒・文 / 木下 晋・絵  福音館書店
「ハル」という女性の一生の物語です。正確には年老いたところまで。
それとともに、ハルとユウキチのラブストーリーです。

ハルという赤んぼが生まれ、手にほくろがあることから、器用で幸せになるといわれます。
その通り、小さい頃からとても器用なこどもでした。しかし、15の時に相次いで、両親を亡くし、
苦労をして兄弟の面倒を見ます。
その後、ユウキチさんと結婚しケーキ屋をやります。子どもを育て、年老いていきます。
子どもはケーキ屋にはならず、サラリーマンに、やがてユウキチさんは亡くなります。

淡々としたお話です。きっと、どこの年寄りでも似た経験を持っていることでしょう。
でも、見開きに描かれているモノクロのスケッチは、読者を大きく揺さぶります。
いつもながら、涙無しには読めません。やはり、いい年にならないと、このおはなしは、
本当の意味での感動は得られないのではと思います。
読んであげるなら5歳からとなっていますが、どのように読むのでしょうか。
もちろん、年齢によって色々な感じ方があっていいのでしょう。

モノクロの中に、赤い色の丸い玉が描かれていますが、先祖たちの魂と解説されています。
この解説がなくても、どことなく見守っている物と感じることが出来る絵です。


オンライン書店ビーケーワン:ありがとう、フォルカーせんせい 「ありがとう、フォルカーせんせい」パトリシア・ポラッコ作・絵 / 香咲 弥須子・訳  岩崎書店
字の読めなかった作者自身の自伝的物語です。
字が読めないといっても、LDによるもので、小学校の5年生になって字を読むことが
出来るようになりました。それは、担任の先生(物語ではフォルカー先生)が、LDによる
ものと気が付いて、熱心に教えてくれたからです。

トリシャは、小さい頃から本を読むのを楽しみにしていました。でも、なぜかトリシャには、
字が読めないのです。覚えることもできません。字はくねくねとした模様にしか見えないのです。
その代わりに、絵がとても上手で、絵はいつも褒められていました。

学校に行くようになっても字が読めないトリシャは、次第にいじめられる様になります。
それでも、時々ずるやすみをしながらも、学校には行きますが、自分は皆と違って頭が
悪いのだと思い込んでいます。

小学校5年の時に担任になったフォルカー先生は、トリシャがLDだと気が付き、国語の
先生と二人で放課後、特別授業をして字を教えました。このお陰でトリシャは字が読める
ようになり、後年、絵本作家になるのです。

お話の中に、トリシャとお祖母さんのやり取りが出てきますが、夜空の星は向こうの世界の
穴の開いたところで、人間は皆しっかり掴まっていないと向こうの世界にいってしまう、という
場面があります。とてもユニークな考えで、きっと、そうなんだ、と思ってしまいます。

自伝的物語だからこそ、声高でなく字が読めなかった頃のお話が、静に語られます。
むしろ、その方が、読者は感情移入しやすいでしょう。
絵も子供の頃から上手だったのを窺わせる感じです。人物の表情が特にいいです。

最後に、東京学芸大学の先生がLDについて、説明文を書いています。
でも、そのLD児のためだけにある内容ではなく、人との繋がりが人間を作っていくという、
物語がしっかりと語られている絵本です。


オンライン書店ビーケーワン:月にとんだ猫 「月にとんだ猫」 森津 和嘉子/作・絵  文渓堂
表紙は少し不気味な感じです。猫が翼をつけて暗い森の木の間を
満月を背に飛んでいる姿です。この表紙と題名に引かれて本を手に取りました。
猫が月にどうやって飛ぶんだろうと、興味をもって。

ねこはヒメという名前です。主人公の少年の家は森のそばにあり、森にはふくろうも住んでいます。
ヒメは、いつも少年の部屋に一緒にいるのですが、ある日外に出たままもどりません。少年は心配して、
探し回りますが、いつまでたってももどりません。

少年は、図書館でふくろうについて調べ、フクロウが猛禽類であることを知り不安に駆られます。
そして、猫がいない間にシジュウカラが蛇に襲われたりして、少年は次第に自然界の法則を感じます。
ヒメがもう戻らないことを悟ると、ヒメはフクロウの雛の一部になり月に向かって飛んだのだと、
思うのです。

読後、ちょっと物悲しいような、不思議な感覚を覚えます。絵も森の中の様子など細かく描かれて、
きれいな絵ですが、やはり物悲しい感じを受けます。


オンライン書店ビーケーワン:彼の手は語りつぐ 「彼の手は語りつぐ」 パトリシア・ポラッコ文と絵 / 千葉 茂樹・訳  あすなろ書房
130年間5代にわたって語りつがれてきた物語です。
南北戦争の時のお話です。作者のご先祖に当たるシェルダンは、南北戦争に従軍した時、
生死の境をさまようような怪我をします。この時、助けてくれたのが黒人のピンクスでした。
ピンクスは、奴隷でしたが逃げ出し北軍の兵士になっていたのです。
南北戦争の時、ピンクスのように逃げ出した黒人の奴隷で組織した隊があったそうです。

ピンクスは大怪我をして動けないシェルダンを、母親の所へ連れて行きます。
南軍に見つかれば、皆命がないという状況で、シェルダンの怪我が治るまで、自宅で
面倒をみてくれました。
ところが、シェルダンとピンクスで部隊に戻ろうとした時、悲劇が起きます。
南軍がやってきて、ピンクスの母親は殺されます。そして、部隊を目指して出かけたふたりも
南軍に掴まり、ピンクスは殺されシェルダンは捕虜になります。
やがて、シェルダンは故郷に帰ることができ、命の恩人であるピンクスの話を娘のローザに
何度も話して聞かせるのです。

白人のシェルダンは字が読めず、黒人のピンクスは字が読めます。ピンクスは、書物を
読むことによって、自分の本当の主人は、自分しかいないと認識します。また、戦争も
信念を持って戦っていました。ところが、シェルダンは強い意志を持って戦ってはいませんでした。
でも、生き残り子供や孫が生まれたのは、シェルダンです。シェルダンのこの話は、一族に語りつがれます。

作者は、「フォルカー先生ありがとう」と同じ、ポラッコです。ポラッコは、一族の話や、
自分の話などを多く絵本にしています。


オンライン書店ビーケーワン:鹿よおれの兄弟よ 「鹿よおれの兄弟よ」 神沢 利子・作 / G.D.パヴリーシン・絵  福音館書店
感動という言葉がぴったりする絵本です。
シベリアの奥地に住む猟師が、鹿狩りに行く様子を、韻文で書いたものです。
猟師は、服装などからモンゴル系の人と思われます。

細密画の絵が、情景を細かく美しく描き、遠い昔から繰り返された狩を、神聖な物に
感じさせます。

鹿は、人の服になり、靴になり、人の肉になり、血になる、だから俺は鹿だ、と猟師は
言います。この狩りが本当の狩りです。楽しみに狩猟をすることは、やはりどこか違います。
殺すことに正当性というものはないのかもしれませんが、殺さなければ生きていけないのです。
こうして、人類はここまで来たのです。それを、真正面から教えてくれます。

あちこちの書評で、評判の高い絵本です。評判どおりです。


「三角あき地のネコ人間」 宮西達也/作・絵  岩崎書店
すでに、新刊書での取り扱いはないようです。図書館で探して見てください。
"ウルトラマン””ティラノくん" シリーズで、おなじみの宮西達也の初期の作品です。
絵本ではなく、幼年童話という体裁ですが、挿絵も大きく、文章の長い絵本の感じです。

小学生のたけし君とあき地のネコのミィーが、入れ替わってしまいます。
たけし君は、その日から、あき地のネコのミィーとして、人間社会を見ることになりました。
すると、身近な家族や友人の知らない面を見て、人間ていろいろあるんだな、と考えるお話です。

怖い先生が、ゴキブリを怖がったり、男のようだと思っている姉が恋する乙女だったり、
泣き言を言わない父親が、本当はすごく疲れていて大変なんだと、気が付いたり、様々な、
周りの人間たちの、別な面を知り、それはまた、弱みでもあるのですが、人間の複雑さを
子供にほんの少し、教える物語になっています。

挿絵に出てくるミィーが、「にゃーご」のネコによく似ています。
まあ、当たり前のことですが。

「さむがりやのサンタ」 レイモンド・ブリッグズさく・え / すがはら ひろくに・やく  福音館書店
「サンタのなつやすみ」レイモンド・ブリッグズさく / さくま ゆみこ・やく  あすなろ書房

オンライン書店ビーケーワン:さむがりやのサンタ   オンライン書店ビーケーワン:サンタのなつやすみ
サンタクロースのおじいさんのお話です。
わざわざことわらなくても、とお思いですね。ことわる理由があるのです。
このサンタクロースは、今までの常識の中のサンタさんではありません。

さむがりやのサンタさんなんて、想像したことがありますか。
また、北極に住んでいるのに、今日も雪か嫌になるな、なんて考えるサンタさんを
考えたことがありますか。

ブッリッグズは、さむがりで、こどもたちにプレゼントを配るのは仕事という
サンタクロースの話を描きました。
だから、描かれているサンタさんは、ちょっと頑固そうなふつうのおじいさんです。
「さむがりやのサンタ」には、サンタさんの日常生活が、といってもプレゼントを
配る日の日常が描かれています。

朝食の用意をして、トナカイに餌をあげて、ペットのクロとポチ(猫と犬)に
いってくるよ、というとドアに鍵をかけて出かけます。
プレゼントを配りながら、「煙突なんてなければいい」とか、「なんだ、ジュースか」
なんて、途中でお弁当も食べます。トナカイにも持ってきた餌をあげながら、
ラジオの天気予報を聞いて、「ちぇっ、まったく」と言っているのです。

やっと終わって戻ってくると、そりを仕舞って、トナカイの世話をして、
赤い服を脱いで、食事、お風呂のしたくと、ひとりで大変です。
最後は、ベッドに入って、読者に向かって「ま、おまえさんも、たのしいクリスマスを
むかえるこったね。」と、しかめ面をしていいます。

「サンタのなつやすみ」は、同じサンタさんのバカンスの物語です。
ソリをキャピングカーに改造して、もちろん、その様子も事細かに描かれています。
暖かい地方へ出かけたり、カジノに行ったり、バカンスを楽しみますが、
サンタさんだと、ばれそうになって、帰ってきます。
でも、帰ってきた後の最後のページには、「だがな、なかなかたのしい
なつやすみだったわい」と、笑顔で、読者に話しかけています。

この2冊をならべた意味がお分かりいただけたでしょうか。
この2冊は、対比して読んで頂くと、より楽しめます。
表紙だけでも、アイスクリームとプレゼントの袋、カメラと水筒の見える
お弁当の入ったバッグと、対比して描かれています。
顔も怒ったような顔と、笑顔です。

サンタさんがふつうのおじいさんで、どんな暮らしをしているのかと、
考えて読み比べてみてください。

なお、「サンタのなつやすみ」は、「ごきげんなサンタのせかいりょうこう」と
内容がほぼ同じですが、少し辛口になってます。


「ゼラルダと人喰い鬼」トミー・ウンゲラー〔作〕 たむら りゅういち・やく  あそう くみ・やく  評論社
表紙画像はありませんが、bk1にリンクしています。
ゼラルダと言う女の子が、子どもを喰う鬼に美味しいご馳走を
作って、鬼もゼラルダも幸せになるお話です。

子どもを喰う鬼がゼラルダを捕まえようとして、気絶してしまいます。ゼラルダは鬼が
お腹を空かしていることに気が付いて、ご馳走を作ります。鬼はこのご馳走が大変気に入り、
ゼラルダをお抱えの調理人にします。やがて、成長したゼラルダと鬼は結婚して子供が生まれ
幸せになりました。

ウンゲラーの絵は、いろいろ仕掛けがある感じで、お話と直接関係無いことが描かれていて、
それを見つける楽しみがあります。
私は人喰い鬼がゼラルダの前に倒れている場面で、鬼の足元にトカゲらしき物が、いるのが、
なぜ?と。何かの伏線でしょうかね。

五味太郎氏は、最後のページに子どもの一人が、あかんぼを見ながら、後ろ手で、
ナイフとフォークとを持っていることに、注目していました。
実にこれもおもしろいです。


オンライン書店ビーケーワン:ブライディさんのシャベル 「ブライディさんのシャベル」
レスリー・コナー文 / メアリー・アゼアリアン絵 / 千葉 茂樹・訳  BL出版

ブライディさんが、ヨーロッパからアメリカにわたる時に、
一本のシャベルを持っていきます。そのシャベルを通して、ブライディさんの半生を
描いています。

物語から、アメリカの農民の姿を知る事が出来ます。
農場の様子や、暮らしの様子など、また、どんな自然災害に悩まされたかなどです。
そして、その場面の中に、いつもシャベルがあります。
静に年を取ったブライディさんの側にも、シャベルはあります。

絵は版画です。版画に色付けがなされている感じです。
「雪の写真家ベントレー」でコールデコット賞を取った作家です。


オンライン書店ビーケーワン:えをかく 「えをかく」  谷川 俊太郎・作 / 長 新太・絵  講談社
もともとは、一遍の詩として発表されたものを、絵本にしたものです。
「まずはじめに じめんをかく」から始まって、次々に「○○をかく」と繋がります。
谷川俊太郎のすごいところは、何でもない言葉の羅列のように見えて、
主題を感じさせるところです。いつもすごいと思います。

そして、そのすごさをそのまま絵にした、長新太もまたすごいです。
まさしく、すごさのぶつかり合いです。
これといったストーリーがあるわけではないのですが、おもしろい絵本です。
そして、読み終わると、何となくこのリストかなって、納得していただけると思います。


オンライン書店ビーケーワン:おばあちゃん ひとり せんそうごっこ 「おばあちゃん ひとり せんそうごっこ」 谷川 俊太郎・文 / 三輪 滋・絵  プラネットジアース
この絵本、読んでみるまで「おばあちゃんがひとりで戦争ごっこをする話」と
思っていました。だから、すごいスーパーおばあちゃんのお話かなと。
でも、これは、3編の詩が集められたものです。「おばあちゃん」「ひとり」「せんそうごっこ」です。
谷川俊太郎の詩に三輪滋が絵を描いてます。

そもそも、谷川俊太郎の詩そのものが、シュールな感じですが、この絵がさらにそのシュールさを増して、
凄まじいです。この「すさまじい」は、古語の「すさまじい」の意味です。つまり、怖いほどの迫力です。
でも、興ざめではなく、素晴らしい詩と絵の、共演です。

「おばあちゃん」は、寝たきりのおばあちゃんを看護しているおかあさんを見ていて、
子どもが感じたことを言葉にしたものです。
認識できなくなったおばあちゃんを、宇宙人と言い表していて、いずれお父さんもお母さんも
そして、自分も宇宙人になると結んでいます。

「ひとり」は、ひとりでいるのが好きな少年の気持ちを、詩にしたものです。
皆と仲良くするように周りでいいます。でも、いじめる友達と喧嘩したくないし、自分は自分であると、
アイデンティティの問題にも及んでいます。

「せんそうごっこ」は、子どもが戦争ごっこをする話です。
これは、怖いです。戦争が簡単なことで始まり、人を殺しても怒られず、勝った方も負けたほうも、
皆死んでしまいます。でも、ひとり生き残った少年が、「こわい だれかきて!」と、宇宙空間で叫ぶ
姿は、本当に寒々しく怖いです。

3編とも、楽しいお話ではありませんが、なかなか面白いお話です。
なお、日本語とともに、英語が書かれています。簡単な単語なので、読み比べるのも面白いと思います。


オンライン書店ビーケーワン:注意読本 「注意読本」  五味 太郎・著   ブロンズ新社
一家に一冊「注意読本」を。という感じです。
生きていく上での注意がたくさん載ってます。大人も子どもも、よく読んで、人生を豊かにして
ください。

例、「親切に注意」あわてていますと なかなかおちついて お礼が言えないものですので
注意しましょう。
  「御親切に注意」御親切にもなかなかおちついて おことわりがしにくいものですが
そこはがんばって きっぱりとするように 注意しましょう。

見開きに並んでいます。「親切に注意」は、落し物を拾ってもらう様子です。
「御親切に注意」は、怪しげな勧誘員の勧誘の様子です。

こんな風に、見開きで似た言葉を並べ、生きていく上での注意を促しています。
大人でも、これは注意しなきゃということが、たくさん載ってます。

私は特に「おもちゃに注意」手に入れた三日後 十日後のことをちょっと考えてみて
買う 買わないを判断するように 注意しましょう・・・・
どうして、早くこの本を読まなかったのか。(~_~;)


オンライン書店ビーケーワン:おかあさん 「おかあさん」  
シャーロット・ゾロトウ文 / アニタ・ローベル絵 / みらい なな訳  童話屋

「けいと」という女の子が、自分の母親について、写真を示しながら、
説明していく、物語です。

最初は、赤んぼです。そして、少女時代、学生時代、結婚式、子どもが生まれてくるまで。
子どもは、もちろん「けいと」です。

見開き2ページで、一つの場面になっていて、「けいと」が左ページで写真を示しながら、
説明する様子が描かれます。右ページに、お母さんの姿が描かれています。
「けいと」は、いつも背中を向けていますが、最後に正面を向きます。
アルバムを見ているような感じに、なっています。

おかあさんと同時代を過ごしてきた大人にとっては、「青春の思い出」みたいな絵本です。


オンライン書店ビーケーワン:天上と地上で 「天上と地上で」 ハインリヒ・ホフマン絵と文 / おおたに みな訳  創英社
「もじゃもじゃあたまのペーター」で、良く知られているハインリヒ・ホフマンの
絵本です。「もじゃもじゃ」の12年後に出された本で、ホフマンの玄孫が子どもだけでなく、
大人の読者にもいろいろ考えさせる物語と、はじめに書いています。
人生の知恵や思いやりを伝えたお話とも、書いています。

文章は、韻文で書かれています。左ページに日本語訳が、右ページに挿絵と原文(ドイツ語)が
載せられています。

天使が、天国で働いているお話。小さな子どもが、大人の真似をしているお話。
格言的な言葉。盲目の人の「目の見えない人のうた」など、様々な機知に富んだお話です。
特に「目の見えない人のうた」は、なかなかの物です。

挿絵も、柔らかな色使いで、優しさを覚えます。

この絵本を読んで、もう一度、(ほとんど、勉強しなかったけど)ドイツ語を勉強したくなりました。


オンライン書店ビーケーワン:ワニ 「ワニ」 梨木 香歩・文 / 出久根 育・絵  理論社
副題に「ジャングルの憂鬱 草原の無関心」とあります。
ワニは、いばりんぼうでしたが、自分の思うとおりに生きているだけです。自然に生きていると
普通に威張って生きていくことになるのです。ワニは、兄弟を生まれたばかりに、食べました。
それが、自分らしい生き方なのです。

ワニは、唯一友達が居ました。ライオンです。ワニは、ライオンと友達である事が、誇りでした。
でも、ライオンは?

ある日、ワニはカメレオンを食べようとしますが、「仲間を食べるのか」と言われます。
ワニは、カメレオンを仲間と思っていませんでした。でも、カメレオンは爬虫類同士の仲間だと
主張しました。そして、ライオンは仲間じゃないと。
ワニは、仲間とは何かを考え始めます。母ワニの所へも行きました。そしてライオンのところにも。

やがて、不条理にもワニはライオンに食べられてしまいます。不条理に?あるいは当然に?
命が繋がっている、仲間を食べてはいけないが、この世界全てが仲間なのか?など、哲学的に
考えてしまう事柄が、たくさん出てきます。それでいて、なかなか面白いのです。

出久根育の絵は、はっきりと描かれていて、一見アンリ・ルソーを思わせます。


オンライン書店ビーケーワン:ぼくはあの戦争を忘れない 「ぼくはあの戦争を忘れない」 
ジャン=ルイ・ベッソン文・絵 / 加藤 恭子・訳 / 平野 加代子・訳  講談社

Amazon
フランスの少年が、第二次世界大戦の時に、どのように過ごしていたかを
日記のように、淡々と書いたものです。と言って、単調で面白くないと言う事はありません。
普通の少年の日常に、レジスタンス、ユダヤ人、ドイツ軍の占領、アメリカ軍による解放、
配給など、様々な事が起こり、声高な主張より、むしろその怖さがよく分かります。

普通のフランスの少年が、どのように過ごしていたか、どんな事を考えていたか、
読みやすい文章ですが、最後にはずっしりと考えさせられる内容です。

作者はイラストレーターで、子どもために書いた作品ではないと「はしがき」に
書いています。その時代を自分はどのように生きていたか、忠実に思い出して
書いたものですが、その出来事が、多くの人にとって悲惨な出来事であったことを
忘れて欲しくないと書いています。

最後に、澤地久枝氏が解説を書いています。


「名前をつけるおばあさん」
   シンシア・ライラント文  キャスリン・ブラウン絵  まつい たかえ訳  新樹社

長生きをしたお陰で、お友達が皆亡くなってしまったおばあさんの物語です。
おばあさんは、「ベッツィ」と名づけた車に乗っています。ベッドは「ロクサーヌ」
住んでいる家は「フランクリン」です。自分の身の回りにある物に、名前をつけて
いました。おばあさんは、お友達より長生きだったので、だれからも手紙もこない、
名前を呼んでももらえなかったのです。だから、自分より長生きする物たちに名前を
つけて、呼んでいました。誰の名前も呼ばない寂しい生活は嫌だったのです。
こうして、おばあさんは、じぶんより長生きするものたちに囲まれて、
幸せに暮らしていました。
 
でも、自分より長生きしそうにないものに、名前を付けるのは嫌でした。

ある日、おばあさんの家の、壊れかけた門の所に、子犬がおずおずとやってきました。
門は壊れかけていたので、名前はありません。おばあさんは、おなかをすかした子犬に
ハムを上げると「うちにお帰り」といいました。子犬は、行ってしまいました。
ところが、それから子犬は毎日やってくるのです。
     
やがて、子犬はもう子犬とは呼べないほどに大きくなりましたが、おばあさんの
家の門にやってくるのでした。毎日食べものをやりながら「うちへお帰り」と、
おばあさんは、いい続けました。
ところがある日、おとなしい茶色のこの犬は、おばあさんのところへ来ませんでした。
おばあさんは、すわりこんで、大人しい茶色の犬のことを考えました。
そして、決心しました。フラクリンにカギを掛けて、ベッツィを運転し、迷子の犬たちの所へ。
優しい色合いの絵が、気持ちを和ませます。さらに、最後は涙無しでは。
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