古今の名著を絵本でというリストです。
あまりたくさんの絵本があるとは思いませんが、
ついつい、読んでいない名著を探してみようと思います。
「絵本パパラギ」 ツイアビ〔著〕 / 和田 誠構成・絵 / エーリッヒ・ショイルマン編集 /
岡崎 照男・原訳 立風書房
著者のツイアビは、サモア諸島の酋長です。
90年ほど前に、ヨーロッパを旅しました。そのときにパパラギたちの様子を
見て、考えたことを、島へ帰ってから現地の言葉でまとめてありました。
パパラギとは、サモアの言葉で「空を打ち破ってきた人」つまり文明人のことです。
実際ツイアビと親交があったショイルマンが、翻訳しヨーロッパに紹介しました。
「絵本パパラギ」は、「パパラギ」をもとに和田誠が構成して絵を付け、絵本と
したものです。内容を損なわない程度に、文章を変えて短くしてあります。
「パパラギ」は、ツイアビによる文明批判です。進んだ文明がもたらす恩恵を
私たちは享受していますが、ツイアビからみると、おかしなことばかりのようです。
自然と共生しているツイアビの話は、私達にそういう考え方もあるな、と思い出させて
くれます。でも、そもそも拠って立つところが違うのですから、すべて、そのとおり
とは、首肯できない気がします。
私は、「パパラギ」をずいぶん以前に購入してありますが、きちんと読んでいませんでした。
今回「絵本パパラギ」を見付けて読んでみましたが、どうもしっくりこない感じです。
あまりに、文章の調子が強過ぎるのです。(演説調という意味ではなく)そこで、
「パパラギ」を出してきて、見比べました。こちらの方が、読んでいて納得いく様な
文章かな、と思いました。絵本にする場合紙数が限られているので、仕方がないことと
思います。
以上のような感想はありますが、和田誠の絵は、ぴったりです。
「パパラギ」を簡単に知りたい方は、短時間で(「パパラギ」もあまり長い物ではありませんが)
読めますので、どんなおはなしかな、程度で読んでみて下さい。
そして、もう少し読んでみたい方は、「パパラギ」をどうぞ。
「パパラギ」 ツイアビ〔著〕 / 岡崎 照男・訳 立風書房
ヘンリー・D・ソロー「森の生活」スティーブ・ロウ編 金関寿夫・訳 ロバート・サブダ画 佑学社
すでに、本屋さんでは扱っていないようです。図書館などで探してみて下さい。
ソローの「森の生活」の絵本版です。
ソローは19世紀の人で、1845年7月4日から、村はずれのウォールデン湖のほとりに、
2年2ヶ月暮らしました。畑仕事と読書と書き物で静に自然の中で暮らしたのです。
その時の日記をもとに「ウォールデン・森の生活」は書かれました。
アメリカ文学の古典となっています。また、現在でも自然を愛する人、シンプルな生活に
憧れる人などに、好んで読まれています。
実は、この本も以前に購入して読んでいませんでした。
どうも、やっぱりこれは必読書だよね、という意味で購入する本は、後回しになります。(^^ゞ
絵本には、実際は2年間の出来事ですが、一年のサイクルで描き、もう一年は同じようなものと
記されています。また、スティーブ・ロウがソローの著書から、作品の本質と意図を損なわないように、
文章を抜書きして構成したと、記されています。
絵本を読むと、ソローの感じたことを、同じように感じられるような気がします。
何となく、針葉樹のツンとした香りも感じられるような気さえします。
画は、ロバート・サブダ、どこかで聞いた事のあるような・・・。
同姓同名の別人ではないと思うのですが。
あの「不思議の国のアリス」をはじめとした仕掛け絵本のサブダと思うのですが。
といっても、もちろん仕掛け絵本ではなく、木版画風の絵です。
このため、影の黒い部分が多くなっていますが、むしろ森の雰囲気が出ているような
感じがします。
「森の生活」に関係ないのですが、私もとうとう、「不思議の国のアリス」購入しました。
日本語版はすでになくて、英語版ですが。すごい仕掛けに驚くばかりです。(^o^)
「不思議の国のアリス」
楽天ブックスにリンクしています。仕掛けが開いた様子が見られます。
「ヘンリーフィッチバーグへいく」 D.B.ジョンソン文・絵 今泉 吉晴・訳 福音館書店
D.B.ジョンソンが、「森の生活」に着想を得て描いたものです。
ヘンリーというクマが主人公になっています。もちろん、このクマのヘンリーが、ソローのことです。
「森の生活」の中に、フィッチバーグへ行く話があり、友達はお金を稼いで汽車に乗りたいといい、
ソローは、歩いて行きたいと考えます。
絵本は、このおはなしをもとに、描かれています。
ヘンリーは、フィッチバーグに行くのに、歩けば汽車賃を稼がなくていいので、すぐに出かけられると、
汽車で行く友達が「どちらが早く着くか競争だね」と言う言葉を後に、別れます。
見開きページに、左に友達、右にヘンリーの様子が対比して描かれています。
また、内容も草むしりと押し花作り、踏み台に乗ってのお掃除と木に登って道を確かめる、
など、対比させています。
友達は、汽車賃90セントを稼ぐと、駅に駆け込み、人でいっぱいの汽車に乗ります。
ヘンリーはその頃、ブラックベリーのしげみにいました。
結局、友達が早く着いていましたが、ヘンリーはブラックベリーを差し出して、
にっこり笑います。
「うん、ブラックベリーをつんでいたんだ」と。
このおはなしは、ソローは汽車で行くと言った友達に
「汽車賃は90セントで、これを稼ぐのは一日働く必要があります。
昼のほとんどを働くことになりますが、私はすぐに歩いて出発できます。
だから、たとえ世界中に鉄道がはりめぐらされても、私はいつも、きみの
すこし先にいることになるのです」
と書いていることに着想を得て、描かれました。
私も歩いて行くのは、好きです。
でも、今は、歩いていてはやりたい事、しなければならない事の半分も終わらないと
思うのです。だから、やっぱり、新幹線かな・・・?
絵本の作者、D.B.ジョンソンは、友達の働く姿も否定的には描いていません。
考え方、生き方、楽しみ方の違いだということです。
むしろ、働いて汽車賃を稼ぐことは良いことです。近頃の子供には、これを見習わせても
いいかも・・・(^^ゞ
「ヘンリーいえをたてる」D.B.ジョンソン文・絵 今泉 吉晴・訳 福音館書店
「森の生活」でソローは、ウォールデン湖のすぐ側に、小さな家を建てて暮らしましたが、
その小さな家について、絵本に描いたものです。
ヘンリーは、家を建てる事にしましたが、小さな家でした。
友達が、食事は、読書は、ダンスはどこでするの?と聞いてきます。
でも、その度に、ヘンリーは外の畑、草むら、池などに案内して、
「ここが、食堂、ここが読書室」などといいます。
光がさんさんとふりそそぐ草むらなどは、とても素敵な読書用のお部屋です。
ヘンリーならずとも、欲しいです。
最後に、解説兼あとがきのようなものがあり、実際ソローがウォールデン湖の側に、
建てた家の見積もりなどを載せています。
憧れは憧れで、実際はうーん、と考えました。
ヘンリーのシリーズは、まだ2冊あります。
「ヘンリーやまにのぼる」
「ヘンリーのしごと」
「聖書物語」 北見 隆・絵 / 舟崎 克彦・文 ほるぷ出版
有名著作という括りに「聖書」を入れるべきかどうか、ちょっと悩みましたが、
古典文学とは違うだろうと思い、こちらにしました。
この絵本は、「神様たちのお話」に紹介した「アマテラス」と同じシリーズです。
この絵本では、旧約聖書から9つの話が選ばれています。
「旧約聖書の中の物語は、いかに人が神の言葉を読み解くことができるか、または、
できなかったかが、語られるといえるでしょう。」と書かれています。
私は、一応仏教徒ですので、聖書の神様に馴染みがなく、聖書の神様の
言う言葉は、理解が及ばないことが多いです。なぜ、このようなことを言うのか、
なぜ、こんな事を求めるのか、解説されてなるほどと思うことばかりです。
絵本の9つのお話は、よく知られた話ばかりで、キリスト教徒でなくても、
聞いたことがあると思います。
「天地創造」「カインとアベル」「ノアの箱舟」「バベルの塔」「ソドムの街」
「イサクのいけにえ」「ヤコブのはしご」「天使とのたたかい」
この中で、どうして?って、どうしても思ってしまうことは、ソドムの街を
逃げ出す時に、ロトの妻はどうして振り返るのでしょう。残してきたものをおしんで、
と書かれていますが。女っていつもそんな風に思われているのでしょうか。
でも、ポンペイ展で、宝石握って逃げ遅れた亡骸を見たことがありますが、
やっぱり、確か女性でした。(~_~;)
この絵本は、北見隆の絵もいいです。シュールな感じの絵、具体的に描かれた絵、
絵の変わりに木で作られたオブジェ、どれも、端整な感じの良い絵です。
旧約聖書全てが収まっていませんが、旧約聖書の世界を身近に感じることが
できる絵本と思います。
「絵ときゾウの時間とネズミの時間」 本川 達雄・文 / あべ 弘士・絵 福音館書店
大人用に書かれた「ゾウの時間ネズミの時間」(中公新書)の絵本版です。
子供用として描かれていますが、新書版を読む前に、どんな内容かなと、確かめるのも
よいかもしれません。
ガリバー旅行記の話から始まりますが、体の大きさと感じる時間という問題を扱っています。
ガリバーが小人国に着いて、どの位食事を摂るか、体重で計算すべきか表面積で計算すべきか
小人国の議論です。数学か理科の授業の板書のような、ページがあり、説明がそれぞれされます。
そして、グラフや図表などが絵本的に描かれて、新書版の内容を説明していきます。
小さい事はどういうことか、大きい事はどういうことか、絵本の内容をじっくり読んでいくと、
それぞれの動物は、それぞれの大きさに合わせた時間を生きていると言う事が、わかります。
絵はあべ弘士です。動物の絵は、お得意です。この絵本でも特徴を捉えた動物たちが描かれて
います。
本格的に読んでみたい方はこちらをどうぞ。
「ゾウの時間ネズミの時間」 本川 達雄・著 中央公論新社