ひと昔前の作家の絵本     絵本館Top

ひと昔前の作家たちの絵本です。 たくさんの種類が出ている作品もありますが、中でも気に入ったものを 紹介しています。 作家ごとにリストアップしてありますが、絵本館全体から作家ごとに 集めた形になっています。 ですから、どの作品も別なリストにも入っています。
小川未明
新美南吉
浜田広介
宮沢賢治
芥川龍之介
太宰治
坪田譲治
ラフカディオ・ハーン


小川未明

オンライン書店ビーケーワン:牛女 「牛女」 小川 未明・作 / 高野 玲子・絵  偕成社
不思議で切ないお話です。
ある村に耳が聞こえず、口がきけない「牛女」と呼ばれる女性がいました。
「牛女」には、子供がひとりあり、父親のない男の子との二人暮らしでした。
「牛女」は背が大きく、力持ちなので力仕事などをして、暮らしていました。

ところが、まだ子どもが小さな時に、病気になり死んでしまいます。村の人は、
残された子供を代わる代わるに面倒をみて、育てます。「牛女」は、子を思う
気持ちが強かったのか、山に人影となって、姿を現しました。

子供は、少し大きくなると町に働きに出ますが、ある日、もっと遠い町に
出て行ってしまいます。それから、「牛女」が暗くなった町をさまよう姿を
見かけるようになります。

やがて、子供は成功して村に戻ってきますが、村での事業「りんご栽培」
に失敗してしまいます。子供は、母親の供養をしないせいでは、と気が付き
懇ろに法要を営みます。
翌年、りんごについた虫を食べにたくさんの蝙蝠がやってきます。この虫の
ために、りんごが実のらなったのです。その虫を、大きな蝙蝠をリーダーにした
集団がやってきて食べたのです。村の人たちは、「牛女」が、蝙蝠になって
子供を守っているのだと考え、親の思いに心打たれました。

たとえ、死んでも子供を守るという「牛女」の心情が、読む人に切ない物語です。
絵は、銅版画かなと思いますが、優しい色合いの絵です。また、農村の風景、
暗い街の風景、「牛女」の心情がよく表れています。


オンライン書店ビーケーワン:牛女 「牛女」 小川 未明・作 / 戸田 幸四郎・画   戸田デザイン研究室
上記の絵本と同じ小川未明の「牛女」です。
絵を描い人が違います。といっても、母の情愛の描き方に大きな差はありません。
こちらは、絵に描かれる人物が、ほとんど牛女とその子供くらいで、
やや抽象的かなというぐらいです。
どちらを選んでも、遜色はないと思います。


オンライン書店ビーケーワン:赤い蝋燭と人魚 「赤い蝋燭と人魚」 小川 未明・文   酒井 駒子・絵  偕成社
小川未明の名作が、酒井駒子の絵によってさらに奥深さを得た気がします。

北の海の寂しさを1ページ、2ページで、読者に印象付けます。読者はここに魅入られるように、
次のページへ、次のページへと進みます。大方の読者は物語の行く末を知っているので、
途中、ページを繰ることを恐ろしいと思うかもしれません。
そして、その予感どおり、人魚の娘が香具師に連れて行かれた場面の衝撃は、大きいです。
(そのほかの絵本を読んでいないので、乱暴な意見ですが)こんな描かれ方をしたこの場面を
見たことがあるでしょうか。人魚の娘の悲しさ、恐ろしさが切々と、迫ってきます。

絵本の中に、おじいさんとおばあさんは絵として登場していません。
人間の業を描くのに、絵の外に置くという方法もあるのですね。
行間を読むのに似た感覚でしょうか。

酒井駒子ファンならずとも、この絵本は見逃せません。是非、ご一読を。


オンライン書店ビーケーワン:赤い蝋燭と人魚 「赤い蝋燭と人魚」 小川 未明作 / いわさき ちひろ・画  童心社
上記と同じ絵本ですが、絵はいわさきちひろです。しかも、ちひろの絶筆です。
酒井駒子と違い、鉛筆のラフスケッチのようです。あるいは、未完のまま亡くなったようですので、
これから描きこみ、色ものせるのだったかもしれませんが。

この絵本を取り上げようか、少し迷いました。私は、「赤い蝋燭と人魚」は酒井駒子だと思っています。
でも、このいわさきちひろの画も、人魚の少女の切なさを伝えて、訴えかける目をしています。
その一点で、取り上げました。
表紙の少女の目を見てください。また、香具師が来た時の不安げな目を見てください。
ここにも、人間の業を責めるのではなく、悲しげに見つめる目があります。
無垢な純粋な少女を売り渡す、私たちはなんと恐ろしい生き物なのでしょう。

最後にいわさきちひろの長男が、病魔に侵されたちひろが、この絵本をどんな思いで描いたかを、
解説しています。


新美南吉

オンライン書店ビーケーワン:ごんぎつね 「ごんぎつね」 新美 南吉・作   黒井 健・絵  偕成社
誰もが一度は読んだ事がある(と思う)「ごんぎつね」です。
わたしも、小学校の教科書で読んでから大好きなお話です。今でも「青い煙が、まだ、
筒口から細く出ていました。」という最後の場面は、銃口から煙が出ていた絵が、
浮かんできます。

でも、この黒井健の絵に出合って、「ごんぎつね」がさらに名作になりました。
深まり行く秋の中を、進んでいくお話の場面は、どれをとっても素晴らしいです。
特に、兵十の母の葬儀の場面は、お気に入りです。一面の彼岸花の中を葬列が進ん
で行く様子が、いつまでも鮮やかに残ります。

「ごんぎつね」が好きな方も、知らない方も是非この黒井健の絵を読んでみてください。
お勧めです!!


「でんでんむしのかなしみ」  新美南吉・作  かみやしん・絵
amazonにリンクしています。表紙は、amazonでご覧下さい。
「一年詩集の序」「でんでんむしのかなしみ」「里の春、山の春」
「木の祭り」「でんでんむし」が、収められています。

なかでも、「でんでんむしのかなしみ」は、とても心に沁みてきます。
でんでんむしのカラの中は、かなしみでいっぱいという、発想が泣かせます。
それでも、誰もがそうなのだから、そのかなしみを抱えて、生きていかなくてはならない、
と悟るのです。

そのほかの作品も、柔らかな子供の心をやさしく揺するような、美しい物語です。
「ごんぎつね」位しか知らなかった私は、もう一度新美南吉を読み直そうという思いを
この本に感じました。

絵も文章にあった、淡い色使いの絵です。筆にいっぱい水を含ませて、描いた感じです。
この描き方、結構好きで、子供の頃自然にやっていました。でも、絵の先生に「だめ!」
と言われ、筆に水をつけさせてもらえなかったことを思い出しました。


オンライン書店ビーケーワン:あめだま 「あめだま」 新美 南吉・作 / 長野 ヒデ子・絵 / 保坂 重政・編  にっけん教育出版社
新美南吉の幼年童話に、絵を付けたものです。
この「あめだま」は新美南吉が19歳の時に書いたものです。一緒に、「げたにばける」が
入っています。2作品とも、お侍さんが登場します。

「あめだま」は、渡し舟の中で起きた出来事です。
暖かい春の日に、渡し舟に二人の子どもを連れた母親が乗っていました。そこへ、お侍さんが、
船の出る間際に、乗り込みます。

川の中ほどにくると、子どもたちが母親に、飴をねだります。ところが、飴玉が一つしかなく、
向こうへ着いたらと、言い聞かせても聞きません。すると、それまで居眠りをしていた、お侍さんが、
むっくりと起き出しました。母親は、子どもたちがうるさくしたので、起きたと思ったのです。
しかも、お侍さんは、刀を抜いて向かってきました。

母親は、殺されると思い、子どもたちを抱えてかばいました。お侍は、母親に、「飴玉を出せ」と、
言います。母親が恐る恐る出した飴玉を、お侍は、船べりで刀を使って割ったのです。
二つに割った飴玉を、子どもたちに分けて、再び居眠りを始めました。

「げたにばける」は、狸の親子が化ける練習をしています。子どもの狸は、あまり化けるのが
上手に出来ないのですが、下駄に化ける事だけは、上手でした。
そこで、子どもの狸は、下駄に化けて、榛の木の下に転がっていました。すると、ひとりの
お侍さんが通りかかりました。この侍は、下駄の鼻緒を切って、困っていたのです。
狸が化けた下駄を見ると、喜んで履きました。

これをみていたお母さん狸は、びっくりです。子どもの狸は今にも潰れそうです。
苦しそうな声を出したり、しっぽを出したり、でも、侍はかまわずに歩いていきます。
やがて、村に入ると、侍は下駄屋で下駄を買い、下駄に化けていた子狸に、御あしを渡しました。
子どもはさっきの苦しさも忘れ、喜んで、山に帰って行きました。

こんな優しいお侍さんのお話に、長野ヒデ子がかわいい絵をつけています。
まわるい感じに登場人物が描かれ、色づけもパステルと絵の具を組み合わせたような、
色合いです。


浜田広介

オンライン書店ビーケーワン:ないたあかおに 「ないたあかおに」 浜田 広介・文 / 岩本 康之亮・絵  世界文化社

「ないたあかおに」のお話は、どなたもご存知と思いますが、
(このお話を知らずに大人になった人もいますが、身近に一人・・・わたしの配偶者``r(^^;)
だれでも、このお話に涙しない人は、いないのじゃないかと、
思っています。

この本は、浜田ひろすけ自身が、原作を小さな子供用に書き直した、
文章量の少ない原稿をもとにしたものです。
また、絵を描いた岩本康之亮は、独特の美しい画風に定評があると
説明されています。
説明の通りで、絵が気に入っていて、「ないたあかおに」の絵本として、
ここで、取り上げました。

最後に「ないたあかおに」と父、という題で浜田留美という娘さんの
文章が載っています。
浜田ひろすけのエピソードが、じんわりと素敵です。



オンライン書店ビーケーワン:泣いた赤おに 「泣いた赤おに」 浜田 広介・作 / 梶山 俊夫・絵  偕成社
上と同じ作品ですが、絵を描いた人が違います。
梶山俊夫です。梶山俊夫の絵は、昔話風で、上記とはまた違った感じが楽しめます。
こちらは、やや鬼の風貌が年寄りのような気がしますが、鬼に年齢はないのかもしれませんね。

文章は、原作全文を載せています。


オンライン書店ビーケーワン:子ざるのかげぼうし 「子ざるのかげぼうし」 浜田 広介・作  牧野 伊三夫・絵  集英社
サルとキツネとイヌが仲よく登場します。
大方のお話では、この取り合わせはあまり仲がよくないと思いますが、
そのことからも、ひろすけのやさしさが、伝わってきます。

子ザルが、しつこく付いてくる影法師を嫌がり、キツネが一生懸命
影法師を追い払う手伝いをしますが、なかなかうまくいきません。
イヌがやって来て、イヌは少し知恵ものだったようで、木陰に連れて行きます。
でも、これで解決とはなりません。けっきょく子ザルは、木の側を離れないことに
したのです。

影法師はだれにでもあるもので、というより光があれば当然影はできるのですが、
そこを、いやがる子ザルのために、キツネとイヌが協力するのです。
影法師を真剣に追い払おうとする、3人(匹?)を想像すると、とてもかわいいですね。

絵は、シンプルで木炭のスケッチに色をつけた様な感じです。
キツネとイヌは動物風ですが、子ざるはほとんど人間です。
でも、3匹とも服はきていますが。


宮沢賢治

オンライン書店ビーケーワン:猫の事務所 「猫の事務所」  宮沢 賢治〔著〕  黒井 健・絵  偕成社
宮沢賢治の童話を、黒井健が描いたものです。
賢治の童話を絵にしたものは、たくさんありますが、それぞれの作家で
雰囲気が違った物になるようです。ただ、その中に、賢治らしいすっと澄ました
所(私は、いつも賢治に感じています。言葉でこれ以上、表せないのが未熟です。)
は、同じに感じます。
だれが、似合っているということではなく、私は、黒井健のこの絵本の
感じは、とても好きです。

猫がなぜ事務所をやっているのか、ちょっと不思議ですが、
猫が事務をとっていたら、間違いなくこんな感じでしょう。
ふわふわしていて、まるっこくて、ホワンとした感じ。

この表現、ほかの文章に比べたら、全然理解できない、と言われそうです。
でも、こんな感じです。猫の事務所って。
黒井健の絵もこんな感じです。

お話は、事務所の中で、堂々といじめがあり、
唐突に金の獅子が出てきて、終わります。
でも、金の獅子は描かれていません。あたかもそこにいるように、
描かれただけで、終わります。

金の獅子は、神もしくはそれに準じたものと思われますので、
描かれないのは、神々しさの演出上、当然と思います。


イーハトヴ詩画集 雲の信号」 宮沢賢治・詩 黒井健・画 偕成社
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宮沢賢治の詩に黒井健が画をつけたものです。
見返しに、黒井健が「気が付くと雲や空に関しての詩だった」と書いています。
宮沢賢治の歩いた東北を歩きながら、賢治の詩の風景を画にしています。

賢治の詩を「アメニモマケズ」くらいしか知らない私は、こんなにもたくさんの詩が、
あることを知りませんでした。その詩にあわせて描かれた画は、柔らかな光を湛えた
柔らかな東北です。「雲の信号」という題名の由来通り、画のほとんどは、画面の半分以上が、
空を占めています。

ゆったりした空、開けた空、雲の広がる空、どれを見てもあきません。
私のお気に入りは、(本当は、すべてですが、)特に「風景」が気に入っています。
何となく、田舎の春を思い出させて、といって、田舎はふるさとではなくて、
日本という感じです。つまり、だれにでもあるイメージみたいな物です。
でも、やっぱりどこか子ども時代に繋がる風景なのでしょうね。

気分のいらいらした時など、特にお勧めです。ゆったりと、空を眺めて、
世の中の憂さを忘れましょう。``r(^^;)


「ざしき童子のはなし」宮沢賢治どうわえほん  講談社
宮沢賢治の童話を絵本にしたものは、
色々な人が絵を付けて、たくさん出ています。

この座敷童子の話は、東北地方に伝わるもので、
今でも、座敷童子が出ると言う噂の宿屋さんは、
予約でいっぱいと聞きます。

この絵本の絵は、たぶん、油かなと思うのですが、
見開きに一枚の絵の形になっています。
どの絵からも、座敷童子の不思議さと
光を感じます。

光は、昼の光、月夜の光、障子越しの光、
家の奥深くに入り込む光、様々です。
その光が、また、神秘さをもたらしています。

絵本の中の賢治の文章は少なく、文章のない絵もあります。
その絵もまた、賢治の雰囲気を、よく表しています。


「水仙月の四日」宮沢賢治・作 伊勢英子・絵 偕成社
Amazonにリンクしています。Amazonで表紙ご覧下さい。
水仙月とは、いつなのでしょうか。物語中で雪童子が、あまり寒くない
と言っているので、春先のことと思うのですが。でも、たっぷり雪があるようで、
いくら冬に咲くと言われても、私の住んでいる東北地方は、水仙はかなり暖かくならないと
咲きませんが。

取りあえず、創作された物語ですので、「水仙月の四日」は恐ろしい雪婆んごが、
雪童子、雪狼を駆け回らせて、猛吹雪を起こさせる日だそうです。
その日に、赤いケットを被った女の子が、家に急いでいましたが、
吹雪に遭ってしまう、と言うお話です。
でも、雪童子が「今日はあんまり寒くないんだから、凍えやしないよ」と
言うとおり、雪の中に倒れこんだ女の子は、凍死しないようです。

雪の中を駆け回る雪童子(ゆきわらす)雪狼(ゆきおいの)の透明感、
冬の陽の冷たさ、雪の降りしきる様子、など透明感のある筆致で、
描かれています。見開き2ページが1ページ分で、その三分の一が文章、
三分の二が絵という具合になっています。


芥川龍之介

オンライン書店ビーケーワン:魔術 「魔術」 芥川 竜之介・作 / 宮本 順子・絵  偕成社
芥川龍之介は、「羅生門」を読んで以来、天才と思っています。
でも、デビュー作であの「羅生門」を書いてしまったら、後は辛いだろうな、
という気がいつもします。

この「魔術」は、絵本で読むまで知りませんでした。もっとも、龍之介の作品は、
有名な物しか読んでいないから、当然ですが。
昭和初期の感じがよく出ていて、面白い作品です。また、絵も雰囲気がよく出ていて、
魅せられました。

内容は、主人公がミスラ君と呼ぶ魔術師に、魔術を教えてもらう話です。
もちろん、それには、ある条件がありその条件を破れば、魔術は使えない、といものです。
そして、主人公は魔術を教えてもらうのですが・・・・・。

ご想像の通りですが、そんなに怖いお話ではありません。でも、ある意味では、
怖いかもしれません。

世田谷の竹林、篠付く雨、銀座の会員制倶楽部、などなど、芥川の時代の雰囲気が
とてもよく出ています。


オンライン書店ビーケーワン:くもの糸 「くもの糸」 芥川 龍之介・作 / 藤川 秀之・絵  新世研
続けて、「くもの糸」です。
こちらは、よく知られたお話ですので、ご存知の方が多いと思います。
藤川秀之が雰囲気のある絵で、絵本にしています。
極楽の蓮池は、清浄な蓮がどこまでも連なり、地獄の血の池はひどく薄気味悪く、
悪人が首だけ出して浮かんでいます。
血の池から、くもの糸にすがりよじ登っていく罪人の姿が、ずっと奈落から延々と
続いている絵は、とてもどきどきします。結末を知っているだけに、哀れで、悲しい姿です。
どのページも見開き2ページを一枚の絵にしていますので、迫力ある絵になっています。

こんな血の池にいて、一条のくもの糸が降りてきたら、誰でもすがります。
そして、その細さに身をゆだねる時の心細さと安堵感、さらに、その糸に大勢の人間が、
すがった時の驚愕と怒り、カンダタでなくても叫びます。おそらく、私でも。
そして、無慈悲にもくもの糸は切れます。
罪人の重みではなく、カンダタの言葉によって。

あまりにも無慈悲だといつも思います。だって人が一杯すがっていたら、
切れそうだもの、叫ぶに決まっています、誰だって。
龍之介の中にある鋭く研ぎ澄まされた心を、賞賛する気持ちと怖がる気持ちが、
いつも相半ばするお話です。

一つだけ、お釈迦様が、少年僧のように見えるのが、やや不思議です。
しかも、それがとても雰囲気に合っているのです。普通は、もっと歳を経た感じに
描かれているものが多いですが。


太宰治

「走れメロス」 太宰治・作 戸田幸四郎・画 戸田デザイン研究室
この絵本は、本屋さんにありますが、表紙画像がありません。
このお話は教科書などにも載っているので、ご存知の方が多いと思います。
人を信じることの大切さ、友情、について、かなりありえないシチュエーションで、
描かれています。初めて読んだときから、自身息切れがするような息苦しさがありました。
息をつかせず一気に読ませる迫力というより、鬼気迫る感があります。
でも、何度読んでも目の前に差し出されると、読んでしまうという作品です。

内容について、簡単に。
人を信じることができなくなった王様をいさめたメロスは、死刑に処せられることになります。
しかし、妹の結婚式を挙げるまで、親友のセリヌンティウスを身代わりに、村に帰ります。
王は「これだから人は信じられないと、セリヌンティウスを処刑すればよい」と考え、メロスは
「何があっても、人が信じあう大切さを、王に分からせてやる」と考えています。
約束の刻限に、ぎりぎりで間に合ったメロスは、セリヌンティウスとともに再会を喜び、
王に信じることを、教えます。王は、それに答えて、二人を赦します。

この絵本は、作品の迫力に負けない絵が描かれたものです。


坪田譲治

オンライン書店ビーケーワン:うしかたと山んば 「うしかたと山んば」 坪田 譲治・ぶん / 村上 豊・え  ほるぷ出版
坪田譲治のお話を松谷みよ子が、絵本用に短くしたものです。
恐ろしい山んばに食べられそうになったうしかたの話で、日本の各地に似たような
お話はあります。恐ろしい山んばですが、村上豊の絵は、ややユーモラスです。
でも髪を振り乱した姿は、やっぱり山姥です。女の怖さなんかも出ているような気が・・・。
民話は、悪者は最後に退治されますが、いつもちょっぴり残酷で、かわいそうな気もします。
たいていは、人間がだまして退治するのですから。


ラフカディオ・ハーン

オンライン書店ビーケーワン:さめびとのおんがえし 「さめびとのおんがえし」 
ラフカディオ・ハーン・げんさく / はなしま みきこ・さいわ / ふじかわ ひでゆき・え  新世研


不思議なお話です。
「さめびと」とは、「鮫人」です。竜宮で王様に使えていたのですが、些細な失敗で、
竜宮を追放されたのです。

お話の主人公「とうたろう」は、ある日「瀬田の大橋」上で、さめびとに会います。
さめびとは、皮膚が黒く、目は緑色に輝き、髭は龍のようにそり上がっています。
不思議な人だと思ったとうたろうは、その緑色の目がやさしさを湛えていることに
気が付くと、声をかけました。そして、さめびとの身の上を知り、食べ物と住む所、
さめびとにふさわしい池を、与えます。

とうたろうはその後、三井寺の「女人詣で」で、美しい娘を見初めますが、その父親が、
宝石を一万贈れるりっぱな若者でないと、嫁にはしないと、言っているのを聞きました。
とうたろうは、裕福でしたが、さすがに一万の宝石は用意出きません。
やがて、とうたろうは娘を思うあまりに床に就いてしまいます。さめびとは、池から
上がりとうたろうを看病しましたが、一向によくなりません。

とうとう、とうたろうは死ぬばかりの様子になりました。そんな時、とうたろうは
「私の命は長くない、それはいい。でも、残されるお前が心配だ」と、さめびとに
話しました。とうたろうの言葉は、さめびとの心の奥深く染み入り、血のような
涙を流しました。するとなんと、その涙が真っ赤な宝石に変わります。
とうたろうは、その涙を見て喜びました。これさえあれば、あの娘を、嫁にするのも
夢じゃなくなると。

さて、さすがのさめびとも、一万の涙はなかなか流せないと、一計を案じます。
そして、とうたろうとさめびとは、瀬田の大橋の上で、宴を催します。
さめびとは竜宮での楽しかったことなどを、きらめく湖を見て、思い出し泣きました。
そうして、宝石を一万集めたのです。すると、湖の彼方から音楽が聞え、竜宮が姿を
現しました。さめびとは王様に許されたのです。

とうたろうは娘を嫁に迎えることが出来ました。以後、さめびとを見た人はいません。

ちょっと、理不尽なお話のように思います。さらに、こんな娘なら心根も知れた物じゃないかと、
疑いたくもなります。ところが、それを補って余りあるほどに、絵が語ってくれます。
とうたろう、さめびと、むすめ、どの登場人物も真摯な心根の優しい人間であるように、
描かれています。
「ふじかわ ひでゆき」の絵は、静で美しく整った絵です。端整な絵が素敵です。
同じ作家の絵で「くもの糸」「樹のおつげ」があります。

おまけに、とうたろうが寝付いているときに、そばに白い猫が描かれています。
これがなかなかかわいいです。


オンライン書店ビーケーワン:樹のおつげ 「樹のおつげ」 
ラフカディオ・ハーンげんさく / さいとう ゆうこ・さいわ / ふじかわ ひでゆき・え  新世研

ラフカディオ・ハーンというとまずは「怪談」を思い出しますが、
ハーンは日本文化を研究し論文も書いています。
この絵本は、ハーンの日本文化に関する論集「生神」に引用された浜口五兵衛のエピソードを
もとに再構成されたものです。

久作は引っ込み思案の子どもでしたが、ある時樹の上にいる女の子と知り合います。
この女の子は不思議な少女で、村の子どもではありませんでした。久作は少女と遊ぶうちに
自分にはできなかった、水泳や竹馬などもできるようになります。
そんなある日、少女は五日後に嵐がやってくる事を久作に教え、村の人に知らせるように
促します。このお陰で、村では大きな被害に遭わずにすみました。

久作はその後、村の子どもたちと遊ぶようになり、少女のことは忘れていきました。
そして大人に鳴った久作は村長になります。
取り入れも終わった秋のある日、久作がひとり縁にいた時地震が起こります。
地震は小さなものでしたが久作は不思議な声に導かれ、大きな樹の上に登り、
遠く津波が来るのを発見します。

その日、浜の近くの神社に村の者が多く集まり、祭りの用意をしていました。
久作は、その村人に津波を知らせる為に稲むらに火をつけます。村人は火事と思い
急いで山の上の久作の家に駆けつけ、津波を避けることができました。

その後、久作は村人の先頭に立って村の復興を行い村は復興します。
絵本は、年を取った久作が不思議な少女の事を思い出す場面で終わります。
不思議な少女は「樹の精霊」だったのだろうかと。

絵は藤川秀之です。この人の絵は「くもの糸」で見て印象が深くすぐに
同じ人の絵だとわかりました。グラフィックデザイナーを経てとありますが、
日本画の雰囲気です。絵本が大判でもあり美術館の絵を見ている雰囲気が
あります。

このお話は以下の「稲むらの火」として本にもなっています。
オンライン書店ビーケーワン:津波!!命を救った稲むらの火 「津波!!命を救った稲むらの火」 小泉 八雲・原作  高村 忠範/文・絵 汐文社
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