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今月のおすすめ絵本です。
こちらでは、すべてのリスト中から今月のおすすめ絵本をご紹介します。

今月のおすすめ理由「9.11の前に」です。


オンライン書店ビーケーワン:綱渡りの男

「綱渡りの男」 モーディカイ・ガースティン作 / 川本 三郎・訳  小峰書店

     この絵本は、「昔、ふたつのタワーがならんで立っていました。」と
     始まります。「昔」「ふたつのタワー」・・・いったい、何時の時代のことだろうと、
     思いますが、これは現代のお話です。実話を元にしたもので、1974年8月7日の
     出来事です。では、なぜ「昔」で「立っていた」と過去形なのかということです。

     「ふたつのタワー」とは、ニューヨークの世界貿易センタービルのことです。
     あの、テロにより崩れ去ったふたつのビルです。その出来事を文字にすることなく、
     言い表したのが、この書き方です。たった30年前のことを、「昔」とまるで
     昔話をするように、書き出さなければならないと言う現実が、私たちの目の前には
     広がっているのです。はっきり文字にするより心の中に、ずんと現実が入って
     きます。

     この絵本のお話は、実話を元にしています。
     フランス人大道芸人フィリップ・プティは、まだ完成していない貿易センタービルで、
     綱渡りをしたのです。もちろん、許可が下りるわけはありません。捕まるのは覚悟の
     上で、協力した友人たちと綱を一晩かけて張り、約1時間空中にいました。

     以前、フランスにいた時にノートルダム寺院でも、二つの塔の間にロープを張り、
     綱渡りをしたことがありました。フィリップは、高い塔を二つ見ると、その間に
     ロープを張り綱渡りをし、ボールが三つあれば、お手玉してみるという青年でした。
     貿易センタービルが、どんなに高くてもフィリップには、綱渡りをするために
     あるように、見えるのです。

     綱渡りをしている場面は、2ページの見開きプラス1ページの開きが付いています。
     3ページ分に描かれている情景は、絵だけでも目が回りそうです。一本の綱の上で、
     バランス用の棒を持ったフィリップが立っている側を、カモメが飛び回ります。
     そして、「ここには、ぼくひとり。なんて幸せで、自由なんだろう。」と。

     捕まったフィリップに、課せられた罰は「街の子どもたちのために、公園で、
     綱渡りをするように。」というものでした。おしゃれな裁判官ですね。(^^ゞ

     そして、「ふたつのタワーは、いまはもうありません。」
     「でも、人々の記憶の中には、ふたつのタワーは、空にきざみつけられたように
     くっきりと残っています。」と結ばれます。

     絵の感じは、やや色彩が暗いような感じがありますが、見開きにさらにプラスする
     など、迫力或る絵で綱渡りの様子を伝えます。特に表紙は足元だけを描き、高さを
     十分に感じさせます。
    
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