見果てぬ夢に     絵本館Top 


「朱鷺のキンちゃん空を飛ぶ」
「夢飛行」
「幸せの王子」
「おぢさん」
「おひるねのいえ」
「スノーマン」
「そらへのぼったおばあさん」
「島ひきおに」
「すきまのじかん」
「あけるな」
「野原の音楽家」
「のらいぬ」
「旅の絵本4」


オンライン書店ビーケーワン:朱鷺のキンちゃん空を飛ぶ 「朱鷺のキンちゃん空を飛ぶ」 新井 満・著 / 佐竹 美保・絵  理論社
佐渡ヶ島の佐渡トキ保護センターにいた、日本の最後の朱鷺キンちゃんが2003年10月10日に死亡、
そのときの死因を巡って作家の荒井満が、考えたことをまとめたものです。荒井満といえば、
「千の風になって」で有名ですが、このお話しも、かなりその手の感じです。
でも、それに乗せられたような気がしながら、涙無しで読むことはできませんでした。
キンちゃんと宇治金太郎さんの思いに、泣かされます。

朱鷺のキンちゃんは36歳という高齢だったので、(人間で言えば100歳以上)老衰で死亡した
と当初伝えられ、仕方がないという思いだった作者は、その後の本当の死因を聞いて驚きます。
本当の死因は、頭部挫傷でした。飛び立とうとしてアルミ製の戸にぶつかり、即死したのです。
その時の様子を、監視カメラがはっきりと写していました。何のためらいもなくキンちゃんは
羽ばたき3メートルほど飛ぶと、戸にぶつかり死んだのです。高齢のキンちゃんはほとんど動く
ことなく、飛翔ケージの中でも飛んだことがない日々だったそうです。そのキンちゃんが、
なぜ、飛ぼうとしたのか。ここから、作者は考えを巡らします。

日本では、キンちゃんが最後の朱鷺でした。この最後の朱鷺キンちゃんを保護したのは、
キンちゃんの監視員であった宇治金太郎という人です。保護といっても、捕獲して、狭いケージの
中で飼育されることに、宇治さんは悩み捕獲を何度もためらっていました。
キンちゃんにとっては、自由と引き換えの長寿だったのです。
その、自由を手に入れるために、最後のその日キンちゃんは飛び立ったと、作者は、結論します。
大空で今は亡き宇治さんとキンちゃんは、共に自由に飛び回っているのだと。

保護と自由を奪うこと、キンちゃんにとって幸せであったのかどうか。永遠の課題でしょう。
でも、キンちゃんが居なければ、中国から朱鷺を貸してもらうことはできなかっただろうと、
言われています。この中国からの朱鷺が2005年現在58羽にもなりました。
朱鷺は絶滅をかろうじてですが、免れています。ただ、日本の朱鷺は絶滅しましたが。
この増えた朱鷺を佐渡の空へ放そうという計画もあるそうです。その時には、朱鷺色の羽根を
輝かして、再び日本の空に朱鷺が舞うのです。美しい朱鷺が舞う日を夢見て、今もキンちゃんと
宇治さんは、佐渡の空を飛んでいるのでしょう。

この本は、児童文学ですが絵本ではありません。挿絵も各章の題字の下にあるくらいです。


「夢飛行」 いとうけんぞう  ポプラ社
丘の上の教会を中心として、時間、季節を巡り描かれています。
春からはじまり、冬のクリスマスまでで、最後に大きなツリーが描かれ、空へ飛び立とうと
締めくくります。作者の紹介に独自の画法でパステル画を描いているように、書かれています。
絵には、詩のような短い文章が付いていますが、見開きのページは、ほとんどが絵で、美しい
色合いが素敵です。表紙絵がないのが残念ですが、夜の濃い藍色は気品を漂わせ、星の色が
様々に彩られて、無限の宇宙をいわゆるメルヘンではない、ロマンチックさで描いています。
一枚一枚の絵が、それぞれ美しい色合いを持って描かれていますので、ゆっくりご覧下さい。


オンライン書店ビーケーワン:幸せな王子 「幸せな王子」 
オスカー・ワイルド原作  清川 あさみ・絵  金原 瑞人・訳  今井 智己・写真  リトルモア

子供の頃に一読している「幸せの王子」です。でも、子供の頃読んだ物語とは、
かなり違う感じがしました。たぶん、子供の頃は、子供用に書き直された文章だったのでしょう。
オスカー・ワイルドの雰囲気が、とても感じられる訳です。(といっても正式には、ワイルドは読んだことが
無いです。ちょっと「サロメ」を覗いた位です。今度、読んでみようと思いました。``r(^^;)

文章は、文字の大きさが3通りになっています。読み聞かせをする時などに、ここは大きな声で、
という箇所が、大きな活字になっています。
さらに、横書きの文章なのに一箇所だけ、縦書きになっています。
どきんとしました。縦書きのインパクトと内容に。
訳は、私が読みたいなと思う本でよく出会う、金原瑞人です。
この文章の書き方は、訳者の考えでしょうか、装丁、デザインなどの人でしょうか。

絵が、またとてもユニークです。
厳密に絵というものではないようです。布に刺繍をしたり、スパンコールをつけたりして、
一つの作品に仕上げてあるものです。それを、写真に撮ってというものです。
かなり、抽象的な感じの作品ですが、ツバメの飛ぶ様子など、速さまで感じることができます。
気持ちを、布の色で表現したり、風で葦がそよぐ所を、刺繍で表現したりで、一つ一つじっくり
見ていくと、その手の込みように驚いてしまいます。

何故か、読み終わってどきどきしてしまう絵本でした。
オンライン書店ビーケーワン<Html>:おぢさん 「おぢさん」  レイモンド・ブリッグズ作 / 林 望・訳  小学館
「おじさん」ではなく「おぢさん」です。どんな意味があるのか。
それは、この絵本を最後まで読むと「へーなるほど」となります。お楽しみに。

イギリスの作家ということで、訳者はリンボウ先生こと林望です。

お話は、唐突に少年ジョンのところに、ちいさな裸のおじさんがやってくる所から、
始まります。小人の様なおじさんは、傍若無人にふるまいジョンを困らせますが、
どこか憎めない感じです。

まず、おじさんは服を調達します。ジョンの使い古しの靴下と手袋です。
もちろん、作業はジョンですが、その間「おい!気をつけろっ!」「さ、こっちによこしな」
「着せてくれ」と、悪びれるところも無くジョンに命じます。
その次は、食事です。ジョンの家では、自然食品を主に購入していますが、
その食品におじさんは一つ一つケチをつけます。そして、ジョンに大衆的なパンや紅茶を
買ってくるように、命じます。
「命じ」るのです。「頼む」のでは、ないのです。唐突にやってきたに過ぎない
素性も分からない、ただのおじさんなのに。

とかく、保護される者は、おとなしくしているのが、当たり前で、そこに保護している者の、
保護されている者に対する敬愛が、あるのかどうかは、見過ごされ勝ちです。
相手をひとつの人格として認めているか、否かは、大事な問題です。常に、私たちは、
そこを忘れてはいけないと、おじさんは教えてくれているようです。

でも、散歩に行ったおじさんの屋根から月を見ている後姿の切なさが、身を切られるように、
染み入ります。この様子が、表紙絵になっています。この絵は絵本中2度出てきます。
おじさんの孤独と寂しさが切々と伝わってくる場面です。
また、ある意味遠い日の夢を追っているようにも見えるのです。それで、このリストにしました。

絵本の中は、このほかに楽しめることがいろいろ出てきます。おじさんに最初に持って
きたマグカップの絵柄は、スノーマンです。おじさんの素性をジョンは「拝借さん」で
しょうと、言ってみたり。「拝借さん」は、邦題は「床下の小人たち」です。私も
子供の頃大好きで、夢中で読みました。
さらに聖書、聖歌の一節がでてきたり、イギリスの普通の食べ物が登場して、
イギリスの食卓が思い浮かんだりします。

おじさんは、置手紙を残し、結局素性も分からず姿を消します。
絵本の最初に中国のことわざで「魚と珍客は三日おけば臭う」と、あります。

最後に訳者は、あえて辛口の言葉で訳してあると記しています。それがすぐれて
社会批評的児童文学の正統的な文法と信じているから、ということです。


「おひるねのいえ」 オードリー・ウッドさく ドン・ウッドえ  えくにかおり・やく  ブックローン出版
楽天ブックスにリンクしています。表紙画像は楽天でご覧下さい。
このリストの夢は「見果てぬ夢」なんですが、``r(^^;)ぽりぽり
お昼寝の夢を特別に入れてください。

優しい雨が降っています。すべてのものをしっとりと濡らす雨です。
家の中では、お昼寝中です。窓から外の様子が分かります。

家の中にはベッドがあるの、から始まり、おばあちゃん、ぼうや、犬、猫、ねずみまで、
気持ちよさそうにお昼寝します。
文章は数え歌のようになっています。お昼寝しているおばあちゃんの上にぼうやが重なり、
犬が、猫がねずみがと重なります。でも、最後ののみだけは眠っていなかったので・・・・。

最後のページは、晴れ渡った空に虹がかかり、もう誰も寝ていない おひるねのいえ、で
終わります。

本当に気持ちよさそうに、寝ています。雨の音を聴きながら。
この絵本を見ると、誰もがお昼寝したくなります、こんな日には。


オンライン書店ビーケーワン:スノーマン 「スノーマン」 レイモンド・ブリッグズ〔作〕  評論社
上記の「おぢさん」と同じ、ブリッグズの絵本です。
シチュエーションも同じですが、こちらはファンタジックなお話です。

少年が作った雪だるまが、その晩動き出して、少年と一緒に歩き回り、遠くまで、
連れて行ってくれます。

家の中は、雪だるまにとって知らない物ばかりで、冒険しているようなものです。
その冒険が終わると、今度は雪だるまが少年を遠くまで、連れて行ってくれます。
楽しい時を過ごして雪だるまは、雪だるまに戻りますが、翌朝、少年が外に出ると、
融けて無くなっていました。
融け残った雪だるまの一部を見る少年の後姿で、終わります。

ブリッグズのお話は、ファンタジーのままで終わらせてくれません。
現実に戻ることを忘れません。
しかし、そのことが返って、ファンタジーをより身近にしてくれるような気がします。

なお、『スノーマン」は、「ゆきだるま」を改題したものです。


「そらへのぼったおばあさん」 
サイモン・パトック文 / アリソン・ジェイ絵 / 矢川 澄子・訳  徳間書店

7歳の誕生日に、空に輝く美しい星とダンスを踊りたいと女の子が願います。
その願いを聞いたお月様が、お日様に相談して空の仲間を集めます。
そこで出た結論は、大きな空にまで届く木を女の子の側に植えて、空に登れるように、
することでした。風が種を探し、お日様が照らして木を育てます。
そして、ある日、とうとう木の梢が空に届きました。

「小さなおじょうさん」と星が呼びかけます。
「わたしは、もう小さな女の子じゃないわ」と107歳になったおばあさんは答えます。
でも、空の仲間にして見たら100年なんてホンのちょっとの間です。
おばあさんは、重い体を持ち上げて、木に登りきれいな星と、ダンスを踊ります。
いつまでも、いつまでも・・・・。

優しい色と、優しい線で描かれた絵が、お話の雰囲気を出しています。
ファンタジーですが、小さな女の子がおばあさんになった時間を、十分に考えさせてくれます。


オンライン書店ビーケーワン:島ひきおに 「島ひきおに」 梶山 俊夫・絵 / 山下 明生・文   偕成社
鬼の哀れに涙するお話です。
昔話の鬼は、人間に害をなすものとして、退治される運命を持つものが、大半です。
ですが、あたらしく書かれたお話は、鬼が人間と仲よくなりたくても、人間が拒否
してしまうという、パターンが多いです。「泣いた赤おに」はその一例といえますが、
この「島」をひいていく鬼の哀れさに、匹敵する鬼の話は、他に知りません。
(もちろん、私が知らないだけかも)

広島県の能美島につたわる昔話をもとに、書かれたものだそうです。
能美島の隣にある敷島とは、もと引島といって、鬼が引いてきた島と言われています。
引島を引いてきた鬼は、力尽きてその場で死んだと伝えられています。
でも、この絵本の「島ひきおに」は死にません。

人間と仲よくして遊びたいと思っていた鬼は、人間に島を引いてくれば、仲間に入れると
言われ、島を引いて行きました。でも、人間はいろいろ理由をつけて、鬼を追い出します。
鬼は人間に騙されたのです。
でも、人間も鬼と一緒に暮らすということが、怖かったのですから、仕方がないといえば、
ないのですが。

鬼は、島を引いて海を行きます。やがて、島は波に洗われ削られ、なくなります。
それでも、鬼は海を行きます。「おーい、こっちゃ きて あそんでいけ!」と
呼びながら。

梶山俊夫の絵は、海の茫漠たる様子が、手に取るように描かれています。
優しげな色使いと昔話風の絵柄が、こんな広い何も無い海を行く、怖さと、鬼の哀れさを
いっそう引き立てます。


オンライン書店ビーケーワン:すきまのじかん 「すきまのじかん」 アンネ・エルボー作 / 木本 栄・訳  ひくまの出版
昔は、昼間の時間と夜の時間の間には、何もありませんでした。
ある時、すきまのじかんがやってきて、昼の太陽の王様に挨拶をしました。でも、つめたい
青い影をつくるといって、怒られて追い出されました。次にやみの女王に挨拶に行きました。
でも、ここでもむこうへおいきと、追い払われます。

太陽の王様とやみの女王様は、仲が悪いので、すきまのじかんが間に入ることにしました。
やがて、すきまのじかんは、やみの向こう側のじかんに美しいお姫様が住んでいることを
聞きます。すきまのじかんは、むこうがわのじかんの美しいお姫様に逢いに出かけることに
しました。すきまのじかんは青鷺に姿を変えて、出かけました。

美しいお姫様を見た瞬間、すきまのじかんは、お姫様に恋をしました。それから、時々、
青鷺になってお姫様を見に行くようになりました。

読んですぐにモーツァルトの「魔笛」を思い起こしました。お話は違うけれど。

絵は、薄い青を基調に、ホッとするような感じの絵です。すきまのじかんは、背のひょろりと
したピエロのようです。私の好きな逢魔ヶ時のことです。すきまのじかんとは。


オンライン書店ビーケーワン:あけるな 「あけるな」 谷川 俊太郎・作 / 安野 光雅・絵  ブッキング
この二人が組んだら、確かにこんな風に、ちょっとシュールな絵本が、
できあがるかな?という感じです。
「あけるな」と書かれたドアを、あけてはいけないと、言われるとやはりあけて
見たくなるのが、人情というものです。

解説をするとすれば、おそらく心象風景、あるは、幼い頃の思い出を心の中で、
たどっている様子。でも、こんな風に簡単に解説しない方が、いいのでしょう。
ひとり、ひとりが感じるままで、読んで欲しい絵本です。(おそらく、作者たちも
そう思っていると、思います。)

中に広がる1シーンで、とても静かな森の様子があります。でも心安らぐという
よりは、生物の声がしないきみの悪い森のような気がします。もちろん、これは
私の感じ方、皆さんも、それぞれに読んでみてください。


オンライン書店ビーケーワン:野はらの音楽家マヌエロ 「野はらの音楽家」 マヌエロドン・フリーマン作 / みはら いずみ・訳  あすなろ書房
野原に住んでいるカマキリのマヌエロは、音楽家になりたいのですが、
音を出す事が出来ません。音が出せる虫やカエルたちを真似て、色々試みますが、
音を出す事が出来ずに、諦めかけました。すると、そこへ救世主が・・・・。

この絵本は、自分の夢の実現を諦めてはいけないということ、捕食者と非捕食者が
友達になるという物語を、音楽を通して描いています。

絵は水彩のようです。重たくなく見やすい絵です。

この絵本で、自分の好きなことは諦めてはいけないと、改めて思います。


「のらいぬ」 谷内こうた/絵  蔵冨千鶴子/文  至光社
amzon 
文は単語を1ページに一つで、数ページで一文章のような形で
書かれています。単純な言葉ですが、砂山、海、空を大きく描いた絵に、よく合っています。
「あついひ」と書き出していますが、暑い砂浜の出来事として、のらいぬの夢が、語られます。
夏の海の様子を描いていますが、のらいぬと少年以外の登場人物がなく、音のない映画の
ような感覚です。


「旅の絵本 4 」 安野 光雅・著  福音館書店
このシリーズは、すでに6まで出ています。
この4は、旧大陸から新大陸に渡ってきました。
字のない絵本ですが、中身はとにかく豊富で、たくさんの物語が隠れています。
また、1ページに細かく描かれていますので、すみからすみまで、良く見渡してください。
お楽しみがたくさんあります。

なお、最後の著者紹介に資料収集のため、アメリカを旅したことが書かれています。
そして、旅人の進む道は、ページで言えば右へ、方角で言えば東になるので、
しばし考えましたが、結局西部開拓の幌馬車とすれ違い、東海岸へ辿り着く道順を
選んだそうです。最後のページにコロンブスの船や、メイフラワー号が描かれますが、
アメリカで案内してくれた編集者に、手紙で東へ向かう事にしたと、知らせます。
すると、「ダイサンセイ、サイハナゲラレタ」と返事が来たそうです。

このシリーズは、楽しんで読もうと、あまり、まだ手をつけていないので、
おいおい、ご紹介したいと思っています。
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